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「あらあら坊ったら、こんなに汚して」
まるで泥遊びから帰った幼子に言うような調子で彼女は言う。
まみれているのは泥などではないのに。
「坊、怪我はない? そう真っ赤ではちっともわからないわ」
彼女はこちらに手を伸ばすと、顔を包み込んで心配そうに覗き込んでくる。
本当は返り血を浴びないようにもできるのだけど、いつもわざとこうやってたくさんの血を被る。何故なら彼女がこうやって心配してくれるからだ。
「母さま、怪我などしていませんよ」
いつも通りのやりとり。けれどいつも彼女は何度でも心配してくれるから、何度だって繰り返してしまう。
「ならよかった。さあ坊、体を洗ってらっしゃい。その間にとびっきりのご馳走を作ってあげる」
僕が何を殺したのか、彼女は知っていてそれでも微笑む。まるで聖母のように。
「ええ。でもその前に今日の肉をいつもの場所に置いておきますね」
「ありがとう、坊」
そうしてかつては人だったそれを保管庫へ運んだ。
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