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彼女が僕を拾ったのはただの気まぐれだという。試してみたかったから、と彼女は言う。
捨てられたのだと悟るには十分な年齢だった。そこが人喰い魔女の住む森だとも知っていた。
だから彼女が現れた時、すぐに魔女だとわかったのだけど、恐れるにはあまりにも美しく、艶やかだった。
闇色の髪は夜よりもなお暗く、朝と夜の境を思わせる紫の瞳は妖しく光り、ぽってりとした赤い唇は血のように鮮やかで。
呆けたように見上げていると彼女はこちらを覗き込んできた。
「人の子ね。食べるには少し痩せすぎだわ……そうだ、いいことを思いついた」
ニッコリと笑った彼女は、おいでなさいと僕の手を引いて連れ帰った。
子どもを人喰い魔女の住む森に捨てるくらいだから、家にはろくな食べ物もなく、肉なんてそもそも数えるくらいしか口にしたことなどなかった。
だから、肉がゴロゴロ入った料理を出されればがっつくように腹一杯食べた。それがなんの肉であるかなど考えもせず。
その様子を彼女は、それはそれは楽しそうに眺め、僕がお代わりを求めれば、求められただけ肉を与えた。
『人の肉で人の子を育てたらどうなるか』
食事に出される肉がなんであるか知ったのはいつのことだったか。
けれどその頃にはもう、離れるなんてできなかったし、知ったところでなんとも思わなかった。
いつも腹を空かせて役立たずと罵られ殴られていた、そんな生活をしていた頃と比べて、今はなんと幸福なことかと思うばかりで。
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