1st tune 決別の儀式

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1st tune 決別の儀式

-今日は特別な日だ。 普段飲まないドリップコーヒーを入れ、 机の上を片づけて水拭きをする。 そして、携帯電話を手にとる。 今日は、 私の夢を諦める日。 2010年4月22日。 東京の花見シーズンは終わったが、 葉桜がまだその魅力を振りまいている頃。 私はひとつの決断をした。 躊躇いなく、電話をかける。 「ステラパーソナルスタッフィング様でしょうか。  先日内定のご連絡を頂きました、庄野伶香です。  あれから考えた結果、御社に入社させていただきたく、  お電話を差し上げました。はい。これからよろしくお願いいたします。  では、失礼いたします。」 続けて、違う番号を押し、これまた躊躇いなく電話をかける。 「坂村楽器様でしょうか。  先日内定のご連絡をいただきました、庄野伶香です。  あれから考えた結果、恐縮ですが御社からの内定を辞退させていただきたく、  お電話差し上げました。  はい、大変申し訳ないのですが、より進みたい業界を見つけまして…。  ありがとうございます。別の道でも頑張ります。  では、失礼いたします。」 本当は、逆だったのに。 しばらく時間が止まったように、 息をしているのかもわからない静寂が続いた。 コーヒーを飲みほした。すっかり冷めていて、 日に当たった泥水を飲んでいるような気持ちになった。
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