1 チョコレートマフィン

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「シェリル」  お姉ちゃんは厳しい顔で私の名前を呼んだ。私もちょっとまずいと思った。 「ウチに泊まりに来るお客さんは、これから命がけで魔王に立ち向かっていくの。ここで食べる食事が、最後の晩餐(ばんさん)になるかもしれないの。だから、うれしい気持ちで食べてもらいたいのよ」  お姉ちゃんたちにも、お父さんにもお母さんにもいつも言われていることだ。 「それは……、わかってる」  ウチの宿屋のモットーは、『最後になるかもしれない時間を楽しいものに』である。ここから魔王の城に行くということは、そういうことである。  魔王の城に最も近い村の宿屋の宿命とでもいうのだろうか。ウチの泊まったお客さんは、魔王の城に向かって行くと、あまりここには戻ってこない。  魔王討伐に成功した人はほとんどいなくて、失敗した人は報告に来てくれない。だから彼らがどうなったのか、私たちは知らない。  報告に来ないということは、知られたくないということで、それならば知らなくていい。  それでも、今、ウチの宿屋にいる時は、最高の時間に。大々的にそれを前面に出すのではなく、さりげなく居心地よく過ごしてもらう。
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