信じる道

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「兄上、明日はいよいよ跡継ぎの儀ですな。」 弟の吉良藤吉(きら とうきち)がそう言って、兄の吉良佐門(きら さもん)に笑顔を向ける。 「俺は、好かん。藤吉は、それで良いのか?俺と戦わねばならんのだぞ?」 佐門は、虚しい心の内を藤吉に問う。 「私は、兄上に斬られるのであれば、本望でございます。」 この様な悲しげな会話を交わす兄弟の家は、代々鬼を斬る一族として殿に仕える。跡継ぎには、毎度男兄弟のどちらかが選ばれる事となっているが、『跡継ぎの儀』の行われる前に一人が病気や事故で亡くなれば、もう一人がそのまま家を継ぎ当主となる。 しかし、今回は兄弟共に元気に生き延びており、明日に迫った『跡継ぎの儀』では、真剣で戦った勝者がその資格を得る事となる。当然負ける事は、すなわち死を意味する。 「なれど、俺はお前を斬りとうない。」 二つ違いの兄弟で、剣の実力に二年の差は大きかった。また、兄の佐門は剣豪で、もはやこの村には木刀を使った試合で勝てる者等居ない。方や弟の藤吉も剣の腕は確かな物は持っているものの、そもそも戦う事を好まぬ優しさが闘争事態に邪魔をする。 「なれど、それは(いた)し方の無い事ゆえ。」 少し俯き、藤吉は悲しげな顔をした。
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