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恐らく件のトラロープは、瓦礫にワザと乱雑に埋もれさせていたのだろう。機動装甲体と云う大量生産されている軍用品には、簡易データバンクにインプットされたデータか、新たに認識し登録したデータくらいしか入っていない。見逃したのはそのためだろうしね。
うん。リンネは悪くない。
≪なによ。その勿体ぶった言いかた。癪に障るなぁ~≫
「まあまあ、ちゃんとデータ入力しておいてね」
一応、機体の仕組みと同じく、模擬生体理論を応用したコンピューターは搭載されてはいるものの、性能的には猿よりはましレベルの代物である。僕はいつもこれの調整には何かと苦労させられているのだ。
「あ、居た!」
廃墟と化した三階建てのビルの陰に、急ぎ足で隠れる小柄な人影をスコープは逃さなかった。
「逃しはしないよ」
僕は慎重に周囲の状況を観察しつつ、ビルとの距離を急速に縮める。
『あっ…!』
機体のマニピュレーターにやんわりと包まれた人影は、小さく悲鳴を上げて逃れようともがくが、1tにもなる握力でガッシリ固定されている機械の指が人間の力でどうなろう筈もなく、やがて諦めたのか身体を丸め静かになった。
『君一人の仕業かい?』
僕は機体の機能の一つとして組み込まれている、外部音声情報送受信機能を使い、マニピュレーターの指先を相手の耳骨付近にチョンと当て、直接こちらの音声を頭の中へと送り込んでやった。
『うるさ!』
「だろうね♪」
≪ひどいなぁ~≫
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