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勿論、リンネの態度が示す様に、太陽の恩恵も月明かりも星の瞬きも、一切合切地表には届かないので、晴れてるかどうかなんかわかりはしないのだが、時間的には夜だというのに星の光すらも月が遮断しているので、スコープ越しに伝わってくる雲ひとつない空には、すべての物質が吸い込まれそうな暗黒だけが眼に入り、それによって今日は快晴なんだなと天気がわかるのである。
「今日は空気が澄んでいて、暗闇がとっても綺麗だ」
黒い月が現れてかれこれ五年、これくらい時が経ってしまうと、人は異変塗れの日常に疑問も抱かなくなってしまうらしい。
≪あたしは生まれてからこの暗闇しか知らないけど、昔は明るくてキレイだったんでしょ?データではそうなってるもの≫
「寧ろ、昔はどうだったのかな…? なんて、最近はあんまり思わなくなってしまったね」
余りにも厳しい現実の前には、毎日を生き抜くことに汲々となり、つい日常見慣れたことなど小事(しょうじ)に思えてしまうのが人間らしい。
「それにしてもさ、革命とかさ、黒い月が空からどいてくれないとさ、どうにもならない事なのに、人類の救済だなんて出来もしないことばかり言って、世界中のみんなに戦争仕掛けて遊んでいないで、あの月を何とかする確実な方法を考えればいいのにね」
≪彼らは彼らで必死なんだよ。方向性が見当違いなだけだけど≫
ポッキーみたいな携帯食用を取りだした僕は、その中で一番のお気に入りのポテトサラミ味のステックを齧る。
『226、226、こちら01、こちら01。レザー通信の感度はどうか?』
「こちら226、スケルチ5。感度良好。どうぞ」
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