始まり

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 「……憂鬱だ」  そう呟きながら、散歩の帰り、歩道橋の上で空を見上げた。ニュースでは数年前から発生したダライアスの影響で鬱になる人が増えたらしい。でも、僕の憂鬱はそんなことには関係がなかった。  道を歩けば、曲がり角で不良が弱そうな男子に集っていて、家に帰れば、母は粗相をする犬を怒鳴りつけている。コーヒーを片手にネットを開いて少し検索すれば、タレントに対する誹謗中傷のオンパレードだ。  それが日常、どこもかしこも狂っているままだ。  災害があろうがなかろうが人は助け合いを忘れ、弱者をいたぶって自尊心を満たす日常に戻る。そう感じる僕もどこかしら狂っているのだろう。だから、そのループに飽き飽きして、僕は正義心を捨て、素知らぬ顔をするようになった。  「圭ちゃん、起きてるー?」  自室は2階にある、1階のリビングから母の呼声がする。家に帰っても、寝転がってばかりではいられない。  「なんだよ、母さん、寝てたのに」  「また、ミントがカーペットに粗相して、汚したの、圭ちゃんからも叱ってよ」  「なんでだよ、犬は粗相する生き物だからやめとけって飼う前に言っただろ」     
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