雪の降る夜

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 草木も眠る丑三つ時。足首まで覆う雪を静かに踏みしめる音は、夜の闇に反響し飲み込まれてゆく。  躰を温めていた缶コーヒーはすでにその役目を終え、捨てる機会も無いままに上着のポケットにしまい込まれていた。  吐き出される白い吐息は、眺める間もなく霧散し消えてゆく。  あぁ、こんな日、こんな時間に出歩く物好きはきっと自分だけだろう。その証拠に、家を出てからこれまで人一人としてすれ違っておらず、建ち並ぶ家からも物音一つ聞こえやしない。だからだろうか、深々と降り積もる雪も相まって、まるで自分だけが世界に取り残されたように感じるのは。  立ち止まり、空を見上げる。今宵浮かぶは上弦の三日月。闇の中に光る口は、まるでその通りだと言わんばかりに薄く笑みを浮かべている。  なんて、自分はこんなにもロマンチストだったかと軽く自嘲する。  再び歩き出そうと前を見る。三叉路の合流地点。その少し奥に見知った人影を見る。  なんだ、世界に取り残された物好きは、自分だけじゃなかったか。  安心したような、残念なような。 草木も眠る丑三つ時、足首まで覆う雪を静かに踏みしめる二つの足音は、夜の闇に反響し飲み込まれてゆく。
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