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「広夢くんは、学生?」
「はい」
隣に腰掛ける崇之が世間話を持ち掛けてきた。一緒に絵を描こうと誘われてから十五分ほど経過していた。
崇之は広夢を観察しながらスケッチの手を動かしていた。どうやら自分を描写しているとわかった。広夢は恥ずかしくなり、つい視線を伏せた。
「いいね、その角度。ちょっとそのままでいて。睫毛が長くて綺麗だ」
「僕なんか、描かないで下さい」
そう言いながらも指示に従った。そんな広夢にクスリと笑った崇之がスケッチを続けた。
(やっぱりこの人、ちょっと変わってるのかも)
これでは自分が描くことが出来ない。それでも崇之が描きやすいようにと、広夢は微動すらしなかった。
蝉が相変わらず高い声で鳴きたけていた。直射日光は木々の葉っぱで遮断されているものの、ジメジメとした空気が発汗効果を促す。こめかみから滲んだ一筋の汗が顎を伝い、手の甲へ滴り落ちる。
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