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聞かれたくない事を矢継ぎ早に尋ねられて返事を濁した。どうしてこの男は、根掘り葉掘り自分の事を聞いて来るのだろう。いい気はしなかった。
「それなりか……話したくなければいいけどね。ほら、広夢くんも描いてね」
「は、はい」
そう促され、広夢は真っ白なスケッチブックに手を這わせ、何を描こうかと逡巡した後、ゆっくりと鉛筆を動かした。
二人きりの写生大会が静かに流れる中、会話は続く。
「広夢くんは若いから、毎日が楽しくて仕方ないだろう?」
「…………」
そんな事は無いと返したかったが無言でスケッチを続けた。崇之を横目で観察しながら。
「勉強は得意なの?」
「それなりに、ですけど」
「恋愛とかしてる? 好きな子とかいない?」
「……いません」
胸を突かれる質問に、一瞬息が止まったが、少しの間を置いた後、平然を装って答えた。
恋愛に関する事は一番聞かれたくなかった。心の動揺を悟られないようにと、広夢は無表情を貫いたが、崇之は続けて尋ねる。
「いないの? 女の子可愛いじゃない。好きじゃないの?」
「それは、その……それなりに」
「また、それなりに?」
(何だよ、もう)
何が聞きたいのだろうと苛立った。耳が痛かった。
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