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「……わ、凄い」
崇之が描いた広夢に感嘆の息を漏らした。
描かれたのは肩までだが、思春期特有の雰囲気が絶妙に醸し出されていた。自信なさげに伏せられた瞳には臆病、不安、倦怠感、諦め、そんな負の感情があった。希望を持たずに生きる広夢がそこにいた。
(僕って、こんな風に見えてるのかあ)
不愉快さはなかった。寧ろ、ここまでリアルに表現できる崇之に尊敬の念が生まれた。
「これ、俺だよね?」
「――っ!」
ハッとした。なんて拙い絵を彼に見せてしまったのだと。
「あの、すみません!」
「どうして謝るの? よく描けているのに。特に唇が上手いよ」
崇之が描かれた唇に指を置く。色気のある彼の薄い唇に魅力を感じて広夢は描いたのだ。それすらも見通しているようだった。
「でも、お兄さんの絵に比べたら全然駄目です」
「経験が違うからね。専門的に学べば、もっと上手くなると思うよ」
「…………」
広夢は沈黙した。
将来、美大を目指したい気持ちはあったが、両親は猛反対するに違いない。広夢の夢など、彼等に必要ないのだ。
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