男との出会い

16/18
2506人が本棚に入れています
本棚に追加
/366ページ
「……わ、凄い」  崇之が描いた広夢(じぶん)に感嘆の息を漏らした。  描かれたのは肩までだが、思春期特有の雰囲気が絶妙に醸し出されていた。自信なさげに伏せられた瞳には臆病、不安、倦怠感、諦め、そんな負の感情があった。希望を持たずに生きる広夢がそこにいた。 (僕って、こんな風に見えてるのかあ) 不愉快さはなかった。寧ろ、ここまでリアルに表現できる崇之に尊敬の念が生まれた。 「これ、俺だよね?」 「――っ!」  ハッとした。なんて拙い絵を彼に見せてしまったのだと。 「あの、すみません!」 「どうして謝るの? よく描けているのに。特に唇が上手いよ」  崇之が描かれた唇に指を置く。色気のある彼の薄い唇に魅力を感じて広夢は描いたのだ。それすらも見通しているようだった。 「でも、お兄さんの絵に比べたら全然駄目です」 「経験が違うからね。専門的に学べば、もっと上手くなると思うよ」 「…………」  広夢は沈黙した。  将来、美大を目指したい気持ちはあったが、両親は猛反対するに違いない。広夢の夢など、彼等に必要ないのだ。
/366ページ

最初のコメントを投稿しよう!