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「おはよう。お母さん、広夢」
崇之との出会いから数日経った、ある朝の事。
母が作ったベーコンエッグを食べていたところで、兄、広樹がリビング階段を使って二階から降りてきた。
「広樹、おはよう。朝食出来てるわよ」
「ありがとう。そうだ、お母さん。次の日曜日、試合だから」
広樹は広夢と向かい合わせに座ると、カウンターキッチンの向こうにいる母へと言った。
「そうだったの。お弁当はいる?」
デザート用の赤肉メロンを切りながら母が尋ねる。
うんと、頷いた広樹がデニッシュトーストを齧った。母親とにこやかに会話を交わし朝食を摂る息子たちの姿は、誰がどう見ても幸せ家族の構図だ。
吹き抜け造りの広くて開放的なリビング。高い場所に取り付けられた窓からは朝の光が差し込んでいた。贅沢で爽やかな空間ではあるが、広夢にとっては、毎日息苦しい。
有坂家の住む家は都心から少し離れた閑静な住宅街にある。ハウスメーカーの注文住宅で、広夢が生まれた年に両親が購入した。裕福な世帯が多く住むこの地域は、いわゆる高級住宅街で、そんな中でも近所の住民達は有坂家を羨むと聞く。
母はなかなかの美人だ。高給取りの医師の夫に出来のいい長男。理想の家庭だと近所でも噂だった。
広夢はウンザリしていた。羨望の眼差しに酔いしれる母の姿が下らないと思った。他人に自己満足の幸せを誇示して何になるのだろうと。
(面倒だな)
憂いを隠せないまま、次は前に座る広樹へと視線を送る。
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