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(……煩い)
沈んだ気持ちは食欲すら奪う。最近どうも気持ちが不安定だと広夢は実感していた。それが顕著に現れはじめたのは崇之と出会ってからだ。
崇之と出会った翌日、再会は果たされた。その日はスケッチなどせず、絵に関する様々な知識を崇之は教えてくれた。彼の話を広夢は夢中で聞いていた。
気付けば、広夢も心情を吐露していた。家庭での事、自分の存在意義、将来への道。このままでいいのかといった問いに、崇之は何も否定せず耳を傾け、心の腕で包んでくれた。
『俺は何があっても広夢くんの味方だし、応援しているよ』と。
それだけで広夢の心は安らぎを取り戻した。
翌日も、その翌日も姿を見せた崇之と語り合った。学校での事も広夢から話すようになっていた。
対人関係が苦手な広夢だったが、強張った心を崇之は上手に解してくれる。自然と距離が縮まっていった。今では冗談すら言い合えるようになった。一昨日は肩を並べて座り、お互いの顔を描いた。時折触れる崇之の肩に胸が高鳴った。上がる体温を必死に抑えた。
楽しい時間はすぐ過ぎてしまうもので、塾の時間が迫る頃に解散となった。
鳥居を潜り、歩道までつづく長い石階段を降りると、別れの挨拶を告げて二人は逆方向に歩き出す。明日も崇之と会えると広夢は信じていた。
しかし……。
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