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曇天の午後、広夢は神社へと向かった。
灰色の雲が空全体を覆い、空気は湿気を多く含んでいた。雨の気配を察知しているのだろう。毎日煩い蝉たちは啼くのをやめていた。
(来るかな……)
崇之に会える事を期待しながら、広夢は小堂前の階段に腰掛けた。
どうしてここまで崇之を焦がれてしまうのか、解せない感情を広夢は考えてみた。
絵の事を語り合えるのは大きい。何より、広夢という存在を崇之は否定しない。安心を覚えていた。窮屈な現実から逃げ出せる。ほんの数時間、ほんのひと時でも、息苦しい今から離れる事が出来る。それが崇之との時間だ。
(模試は再来週か)
その模試で志望校合格圏内の結果を出さなければ母は怒るだろう。でも大丈夫、基礎は出来ている。数日間、根を詰めれば大丈夫と、広夢は自らの学力を過信する。
今の広夢に一番重要なのは勉強でも模試の結果でもない。今日崇之が来るかどうかだった。
鞄から携帯電話を取り出して時間を確認した。十四時半……塾まであと一時間半あると、広夢が小さな溜息を吐いた時だった。砂利を踏む足音が聞こえた。
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