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「――!」
来たと、顔を勢いよく上げた。
「こんにちは、広夢くん」
待ち焦がれた崇之がそこにいた。彼は出会った日と同じ、黒のジーンズに白無地シャツを着用していた。右脇にはスケッチブック、左手首には、いつもの黒い念珠。ひとつ違うのは肩まで伸びた髪が、今日は一つに纏められていた事だ。それもまた似合っていると、広夢は崇之の姿に見惚れた。
「っ……こんにちは、崇之さん」
喜びで声は上擦り、頬が緩んだ。
「雨が降りそうだけど、広夢くん来てるかなと思ってさ。来ちゃった」
「僕は毎日、来てますから……」
いつもここにいる。だから来てと、無意識に存在を主張していた。そうすれば、崇之も毎日足を運んでくれるかもしれない。そんな淡い期待だった。
「じゃあ、俺も毎日来ようかな。邪魔にならない?」
それを摘んだかのように、隣に腰掛けた崇之が欲しい言葉をくれた。
「なりません! 僕、崇之さんと一緒にいるのが、その……た、楽しくて」
素直な想いを伝えると、崇之が嬉々とした表情で広夢の頭を撫でる。
「――っ!」
頭髪から伝わる掌の感触に広夢は睫毛を震わせた。
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