秘密のはじまり

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「可愛いな。そんなに懐かれちゃうと、お兄さん参っちゃうよ」 「か、可愛いとか無いですから。僕は男だし、もう子供じゃないし」 「俺からしたら、まだ可愛い年頃だよ」    茶化す態度で崇之は頭を撫で続けた。汗ばんだ掌が広夢の髪を、くしゃりと 掴んだ。  他人と距離を取って来た広夢にとって、これは考えられない。しかし不思議な事で、不快な気持ちはなかった。もっと触って欲しかった。 (崇之さんといると本当の自分でいられる。そんな気がする)  瞳を閉じたところで、崇之は申し無さげに言った。 「昨日は来れなくてごめんね。病院に行っていたんだ」 「え……病院?」  どこか悪いのかと、彼の体調を心配するなか、広夢はやっと重要な事に気付いた。  崇之は二十五歳だ。社会人として企業に勤めているとすれば、一般的には働いている時間帯だ。しかし、今日までの行動を振り返ると、どう考えても、崇之は仕事に就いているように思えなかった。そこで広夢は察知した。 (もしかして、重い病気で働けないとか?)  胸が痛んだ。勝手な憶測にしか過ぎないが、それ以外に考えられなかった。 「大丈夫だよ。一年前に事故に遭ってね、今は療養させてもらってる」 「事故って……」  広夢の顔が不安気に歪んだ。 「でも、もう大丈夫だから。心配してくれてありがとう」  これ以上、何も聞かないでくれ。そんなニュアンスがあった。広夢は口を閉ざすしかなかった。
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