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「……どうしたの?」
熱視線に気付いた崇之が声をかける。
「――っ!」
まずいと、咄嗟に瞳を逸らしたが、勘の鋭い崇之だ。広夢がどんな感情で見ていたかなど、きっと見透かしている。
(どうしよう……僕、絶対変な目をしてた!)
広夢は頬を真っ赤にして深く下を向いた。前髪から雫がポタポタと滴った。
濡れたシャツが肌へとへばりついていた。薄い胸板に存在する両方の尖りは綺麗なピンク色をしている。まるで咲く花のように白シャツを彩っていた。年若い体はどこか艶やかで、禁欲的な色香が漂っていた。だが当の広夢は全く気付いていない。
「いいね、その表情……」
崇之が唸るように言った。広夢が視線を正面に戻すと、射貫くような双眸が間近にあった。
「――っ!」
体の底から突き上げる勢いで鼓動が打った。どうして崇之が、そんなにも熱い瞳を向けてくるのかと、戸惑いを露に見つめ返すと、彼は静かに唇を動かした。
「今の君を描きたいな」
「……え?」
瞠目した。こんな濡れそぼった姿を描きたいのかと。
「た、崇之さん?」
困惑を隠せないまま呼ぶと、崇之はコクリと頷いた。結われた髪も一緒に揺れていた。
「描くよ。今、描かないと」
崇之がスケッチブックを開いた。中身は濡れていないようだった。絵を描くモードへと切り替わった彼は鉛筆を手に持った。それを見て、広夢は背筋を正そうとしたが、無言で首を左右に振られた。どうやら動いてはいけないらしい。
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