※プロローグ

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   現在、広夢が勤務するのは都内S区に所在するウェブデザイン関係の会社だ。大学卒業から入社して今年で三年目となる。企業自体は大きくないが、大手クライアントから受注が絶えない信頼度の高い企業だ。  職場の環境も悪くない。殆どの従業員がパソコンと睨み合いながら黙々と業務をこなしている。スーツを着用する必要もなく、私服通勤というのも楽な点だ。寡黙な広夢にとってはやりやすい職場だ。唯一、困ったところを上げるとすれば人手不足だ。繁忙期となると、今日のように帰宅が遅くなってしまう。 (お腹空いたな)  あと数分で自宅マンションに到着というところで馴染みのコンビニへと立ち寄った。空調の効いた店内に入ると、爽快感を覚えたかのように身体から汗が引いた。  ふと、窓際に設置されたイートインコーナーに視線を送ると、サラリーマン風の男性が缶ビールを片手にフライドポテトを食べていた。疲れ切った表情だ。きっと自分も同じ顔をしているのだろうと広夢は横目を送ったあと、値引きシールの貼られたインスタントパスタと、ペットボトルのお茶を手に取り、レジに向かった。  支払いを終えて外に出ると、少し歩いただけで、再び肌から汗が滲んだ。蒸し暑い季節はやっぱり苦手だと眉を顰めた。
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