※プロローグ

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「っ、んっ、はぅ……っ」  小さな喘ぎと粘着質な水音が響いた。 (気持ちいい、気持ちいい……っ)  気分が高揚した矢先――。 『今日はもっと気持ちいい事しようか』  声が響いた。記憶の中の人物が全裸の広夢へと手を伸ばしていた。 (そうだ、彼はあの日、初めて僕の物を口で含んだんだ)  中心部から伝わる温かな口粘膜の感触。腰の髄から蕩けそうだった。官能的な刺激に虜となった。それらを思い出すかのように、広夢は手を速めていく。切っ先から溢れる透明な蜜が指先をどんどん濡らしていった。掌や手首を駆使しながら、とにかく竿棒を扱いた。全体が脈打ち、背筋から性電流が駆ける。 「あっ、んっあぁ!」  艶めかしい息を吐いた。手が止まらない。こんな厭らしい行為、本当はしたくない。罪悪感を抱きながら、広夢の心は過去へと飛んでいく。夏という季節が、どうしても抑え切れない性欲を呼ぶのだ。  年相応の男だ。慰め行為は普通かもしれないが、広夢の場合、思い浮かべるのは女性の裸体でも喘ぐ姿でもない。
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