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「崇之さ、あぁぅっ……ん!」
記憶の中の人物を呼んだ。過去と現在をシンクロさせながら、広夢は吹き零すようにして吐精した。白濁の液が床へと散っていった。
『いっぱい出たね』
青臭くて、苦い精を美味そうに嚥下した男は爽やかに微笑んでいた。焼けるような夏の日差しを背に浴びながら。
(ああ、気持ちいい)
瞳を瞑った。天井を仰ぎながら記憶の余韻に浸った。しかしそれは一瞬にしかすぎない。
「また、こんな……」
現実に引き戻された途端、虚無感に苛まれた。手には、爆ぜたばかりの白い液体が大量にこびりついていた。心の中には、これを飲み干した男が存在しているというのに、今、広夢は一人きりだ。
(会いたい、会いたい……)
決して叶わない願い。今更会ってどうするのだ。自分は彼を裏切ったではないか。
『広夢くん、どうして? 約束したじゃないか』
男の切なげに滲んだ瞳、咎めるように歪んだ唇、悲しい表情が忘れられない。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
滂沱の涙を流しながら、広夢は床へと蹲った。
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