※解放された熱

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「……うん、そうだったね」  抱擁を解いた崇之が、左手で自らの前髪を掴んだ。手首に着けた黒念珠が太陽光に反射していた。  広夢は気持ちを吐露し続ける。 「ありのままの僕を崇之さんだけに見て欲しい。昨日、触れられてキスされて……もっと、もっと欲しいって思ってしまって……」  昨夜、ベッドの中で崇之を思い出すだけで中心部が疼いた。けれど触らなかった。鎮まるのをとにかく待った。 「そうだね、そうだったよね。君を楽にしてあげられるのは、俺しかいないよね?」  髪から手を離した崇之が同意を求めた。肯定しか認めない強さを孕みながら。 「……っ」 今なら後戻りできる。そんな自己への呼びかけを広夢は気付かない振りをした。これでいい。間違ってなんかいないと。 「じゃあさ、今日はもっと気持ちいい事しようか」 「あっ!」  返事をする間もなく崇之に腕を取られると、小堂の向こう側へと連れて行かれた。落ちたままの鞄を気にした広夢は一度後ろを振り返ったが、崇之は足を止めず木々に覆われた場所へと向かった。太い木の幹の下へ到着したところで手が離された。多くの木々の葉が日陰を作り、ひんやりとした空気を生んでいた。
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