ニ、ボールで遊ぼ

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「幸司。じゃんけんは任せた」  柴崎が俺の背中を押して、親指を立てる。  俺はそれに答えてハーフラインに歩く。  相手は門脇。 「行きます、片岡先輩」 「こい! じゃんけん!」 「「ぽん!」」  俺パー。門脇チョキ。  完全なる俺の敗北だった。 「それじゃあ、ボクたちからだねぇ」  花蓮がボールを持つと、気迫が変わる。 「来るぞ、幸司」 「あぁ」  俺たちは重心を低くして、避けの体制をとる。 「避けの体制……?」  後ろから平塚の声が聞こえる。  あぁそうだ。俺と柴崎。そしてカプチーノはよく知っている。  この人の、人間離れした能力を。 「まずは……」  花蓮がボールを振りかぶりながら、柴崎にターゲットを絞った。  鋭く、狂気に満ちたような視線が柴崎に向かったのだ。 「一人っ!!」  大きなモーションでボールを手放す。  そのモーションが始まると同時に、柴崎は左に頭から飛んだ。  ギリギリ、柴崎の上空を通り過ぎるボール。  そのボールは、目視するのがやっとで、反応しきれなかった平塚の横を通りすぎ、勢いよく壁に当たると、反射して花蓮の元に帰った。 「……は?」  平塚が呆けた声を出す。  まあ、それもそのはず。  彼女は、事遊びになると人間をやめる。そんな稀有な存在なのだ。  人間のリミッターを外し、極限状態を保つのだ。 「え? ここって、こんな世界だっけ?」 「もしかしたら、お前も何かあるかもな。目覚めないだけで」  俺は花蓮から目を離さずに、平塚に言う。 「さぁて……もう一球!」  二度目の投球。  さっきよりもモーションが早い!  ロックオンされている柴崎は、俺と反対に走って飛び込む。  スライディングをして、ラインぎりぎりまで行く。  その後ろをボールが飛んで行き、よけきった。  はずだった。
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