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彼は慌てたようにその腕を隠す。
今目の前にいる彼があの時僕とエディの前に現れた人物と同一人物だと言うのなら、それは俄かに信じられないほど彼の腕は細かった。
自分も肉付きはいい方ではないが、それ以上に彼は細いのだ。
身長は自分よりある彼の体は吹けば飛ぶほどに薄っぺらくて、少し戦慄した。
「なんだよ、細くて悪いか?誰にも迷惑かけてないんだから放っとけよ」
そう言って彼は促すように踵を返すので、僕はその後に続く…つもりだったのだが、急に動いたせいだろうか、立ちくらみで目が回る。
小さく呻いて蹲った僕に彼は慌てたように駆け寄ってきた。
「ちょ…おい、大丈夫か?」
「平気…もう3日も飲まず喰わずだったから、少し貧血かな、はは」
自嘲気味に笑うと彼は慌てたように腰に括りつけた袋の中から何か木の根っこのような物を取り出した。
「喰え」
「え?」
それを食べ物だと認識出来なかった僕は目を疑う。
「これ食べとけばとりあえず大丈夫だから、喰え」
「え…でも」
戸惑っていると無理やり口の中にその木の根を突っ込まれる。
苦い…っていうか不味い…っていうかこれ食べ物じゃないだろ?!
それでも親切心でくれた物だろうし、一度口の中に入れた物を吐き出す事も出来ず、僕はそれを飲み下した。
そしてそれは後味も悪くて最悪だった。
だが、その不味さが功を奏したのか頭ははっきりしてくる。
「立てるか?」
「うん、なんとか」
また差し出してくれた手を今度はちゃんと掴んで立ち上がる。
彼の表情は髪に隠れて見えないのだが、少しほっとした様子の彼。
言葉遣いは悪く、ぶっきら棒なくせに割といい人だな、と僕は思った。
「僕を襲った人達ってもういないんですか?」
「あ?あぁブラックが全部纏めて連れてったみたいだな」
「ブラックさんが?」
グノーの乗ってきたと思われる馬に乗せられ彼も一緒に同乗して、ゆっくり牧歌的道を進んでいく。
先日はこの道を死に物狂いで走っていたのが嘘のようだ。
「ブラックは、あんたはここにいるって派手に叫んで馬で走ってったって情報がある。何処に行ったのか俺は知らないが、とりあえずブラックは帰ってないし、あいつの家族も誰も残ってない」
「そう、なんだ」
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