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出て行っていいのか、悪いのか自分には判断できずに、身を小さくすると、その男は困ったなという風にその長い髪をくしゃくしゃとかき回した。
その時、急に薫る甘い薫り。
え?と顔を上げるが、やはりその場にはその人物しかいなくて首を傾げた。
「あ~アジェ様~いませんかぁ?エディのお使いで迎えに来たよ~…って参ったな、本当にいないのかな…」
彼は困ったようにそんな事を言うので、少し肩の力が抜けた。
まだよく分からないが、彼は敵ではなさそうだ。
「あなた、誰?」
それでも警戒は怠らず、逃げ道だけは確保して声をかけると、男はぱっとこちらを向いた。
また彼から甘い匂いがする。これはもしかしてΩの匂い?
今まで母親の匂いですら分からなかったので不思議なのだが、エディはΩの匂いは甘い薫りが多いと言っていたのでそうなのかな?と思ったのだ。
だが、だとしたら彼は自分と同じ男性Ωだ。
世間的にはほとんど存在しないと言われている男性Ωがなんでこんな所に?しかも纏っているのはブラックの匂いで怪しい事この上ない。
「アジェ様?」
「誰って聞いてる!」
僕の叫びに彼はやれやれと呆れたような仕草をする。
「俺はグノー。エディに頼まれてあんたを連れ戻しに来た」
「僕はあなたを知りません」
「そりゃそうだな、話すのはこれが初めてだ。でもあの時会いはしただろ、エディを助けたのは俺だぞ?」
言われてそういえばと思い出す、自分が逃げ出したあの時、確かに誰かが助けに入った。
そしてやはりあの時もブラックの匂いがして、でもこの人はブラックではないとそう思ったのだ。
だがあの時周りは暗く、その人物がどんな容貌だったかまでは思い出せない。
「エディは…無事なの?」
「肩の傷が酷くてな、今日ようやく目を覚ました。それで俺はあいつにここを聞き出してあんたを迎えに来たって訳だ」
「あなたは、誰?」
「だからグノーだって言ってる。エディとの関係を聞いてるなら、俺はあいつの親父の知り合いだよ。あいつの親父を訪ねて行ったら、助っ人を頼まれてな、終わったと思ったらあいつの家もぬけの殻だし、エディは意識不明だしでこっちも困ってたんだよ」
「ブラックさんの…それでブラックさんの匂いがするの?」
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