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「まったく、よく間に合ったもんよ」
再三のモーニングコールをした沙織が後輩の千尋に愚痴る。
北陸新幹線は一路、金沢へ向け走り出していた。
幹事たちはひと仕事を終えて4人が向かい合うボックス席へ腰を下ろした。
「さっき伊集院さんに全員、無事に東京駅を出発しましたって報告しておいたから。全員な」
副幹事の福島が翔太を優しく睨みつけ、沙織と千尋と笑いあった。
「伊集院さんが金沢駅でスタンバイしてくれていると思うと少し気が楽ですね」
千尋は社員全員に配られたペットボトルのお茶を沙織に渡しながら言った。
「前泊して金沢で飲みたかっただけだろうけどね。緊急用のレンタカーを手配しとくだなんて、まったくうまい口実を見つけたもんよ」
皆、部署こそ違えども憎まれ口を言いあえるほどの仲の良い幹事仲間である。
「金沢駅に着いたら、まずはバスに乗りこんで昼食。その後、『雪の科学館』へ行って…」
福島が話している最中に、今年入社したばかりの若い社員が幹事に話しかけてきた。
「あの、すみません。上司が藤沢千尋さんに用事があるから呼んでこいと申しておりまして」
千尋ではなく沙織が立ち上がり
「うん?上司って誰?」
「あ、 あの、平野さんです」
「やっぱり、あのセクハラおやじ。何の用があるっていうのよ。千尋と一緒に飲みたいだけでしょ。わかったわ、私も行くわ。これも幹事の仕事よ、千尋、行きましょう」
千尋は沙織に手を引かれて別の号車へと移っていった。
「やっぱり千尋ちゃんは大人気だな。綺麗で性格も良くて、そりゃ人気もあって当然だわな。な、翔太」
「そうですよね、千尋さんは高嶺の花ですよね。いろんな部署の人からも人気ですもんね。今年の幹事が千尋さんと一緒だっていうとみんなから羨ましがられましたもんね」
「確かに。千尋ちゃんと一緒で良かったよ。お陰で社員がこんなに素直に幹事の言うことを聞いてくれるなんてな。千尋ちゃんのお陰だよ。嫌な顔せずよく働いてくれるし」
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