温泉宿

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「沙織さん、露天に行きましょうよ」 沙織と千尋は大浴場の内風呂から屋外へ向かった。 「しかし、この宿はなかなか良い感じよね。露天はどんな感じだろうね」 「あ、雪が降ってきた!」 千尋は空を見上げ無邪気にはしゃぐ。 「ほらほら風邪引くよ、早くお湯に浸かって、浸かって」 幹事の仕事をしていたお陰で大浴場の第一陣は既に去り、二人はゆっくりと露天風呂を楽しむことができた。 「いやぁ、平野さんも大喜びだったね。お陰で新幹線の後のバスでもみんな大盛り上がりだったね。千尋のお陰だよ」 「いやいや沙織さんがうまく平野さんを手のひらで転がしてくれたお陰ですよ」 千尋は温泉の湯を手ですくいあげ、ゆらゆらと揺らす素振りをしながら沙織にしおらしく頭を下げた。 「あのー、沙織さん」 千尋は神妙な表情で沙織の顔を覗き込んだ。 「翔太くん、どう思います?」 「翔太くん?若いから許されるけど、今朝の寝坊にはヒヤヒヤしたわよ。何回、電話したことか」 「そうですね…」 今度は沙織が千尋の顔を覗き込んだ。 「千尋、もしかして翔太が良い、なんて言うんじゃないでしょうね」 千尋は今度は両手で温泉の湯をすくっては流しすくっては流しを繰り返し、うつむきながら答えた。 「その、もしかして、なんです」 先程からの千尋の挙動不審の仕草から既に感づいてはいたが、沙織は理由が聞きたくて仕方ない。 「翔太くんは悪い子ではないけどね。でもわざわざなんで千尋が?」 「わかりません、自分で言うのも何ですが母性が強いというのでしょうか、昔から弟が欲しかったからでしょうか、でも年上の女って嫌がられるのかな、若い子の方が良いに決まってるだろうし」 普段しっかり者の千尋とは思えぬ回答ばかりが続く。そんな妹分のような千尋を見て沙織はなんとか力になってやりたいと思わずにはいられなかった。
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