温泉宿

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宴会は定番通り社長の挨拶で幕を開けた。 伊集院は早々に幹事の集まっている席を離れ、社長やお偉いさんの近くに陣取って、さながら営業マンの接待のごとく盛り上げていた。 福島が徳利とお猪口を持って翔太の横にどしりと座りこんだ。 「翔太、これを飲め」 「いや、ボク、宴会中は飲んじゃ駄目って伊集院さんから言われてるんすよ」 「いいから、いいから。俺がなんとかしてやるから」 翔太は勧められるがままに福島の徳利をお猪口でもらい受けた。 「ほんとは飲みたくて、飲みたくて仕方なかったんですよ。ひどいですよ、伊集院さんは。何が起こるかわからないからってまったく。福島さん、一生、ついていきます」 翔太がありがたく口に含む。 「ん?これ水じゃないですか、水!」 ガハハと横で笑う福島を睨みつける。 「この徳利を使え。幹事だからって飲めませんって言えないだろう。場が盛り下がっても幹事としては不本意だしな。この徳利は伊集院さんと俺からの愛だよ、愛」 「何が愛ですか、福島さん。もう酔っ払ってるんですか。羨ましいな、まったく」 先輩たちから可愛がられている翔太を千尋は微笑ましく眺めていた。 「千尋、そろそろ平野さんのところに出陣しますか」 沙織がビール瓶を両手に立ち上がった。 「平野さんを完全に攻略してしまえば、あとあと幹事仕事もラクになりますからね」 千尋もまんざらでもなく、宴会の盛り上げ役を楽しんでいた。
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