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何時間たったのだろうか。空が白み始め、完全に夜が明けようとしていた。少し前から奈月の呻き声は悲鳴に近いものに変わっていた。いてもたってもいられなくて扉を開けようとするが、それも奈月の言葉に躊躇われる。だがやはり入るべきだ、と結論付けて扉に手をかけた瞬間、向こうからがらっと扉が引き開けられた。すぐ真正面に立っていた俺に扉を開けた主、ナースは一瞬驚いたように固まったがすぐに
「旦那さんも入って!手を握ってあげて!」
と声をあげた。すぐさま俺も部屋に入る。台の上に居た奈月は、目をぎゅっと閉じて襲い来る痛みに耐えているようだった。同じようにぎゅっと握られた拳に手を添える。それを感じてか奈月の目がそっと開いた。
「…ば、んり?」
「あぁ。もう少しだ頑張れ奈月」
それ以外に言葉が見つからずそう声をかけると奈月は微かに頷いた。
「次の波で頑張って力いれてくださいねー」
ナースが奈月に声をかける。それにも奈月は微かに頷いた。次の瞬間また目をぎゅっと閉じて、全身に力を入れた。悲鳴のような声が上がる。ぎゅっと閉じた目尻から痛みか生理的なものか、涙が流れていて思わず指で掬いとる。
「奈月さん、今です!力いれてー!」
「頭見えてきたよ!もう少し!」
医者やナースが声をかける。俺も握った手に力を込めた。部屋の中が慌ただしく動き出す。
「頭見えたよ!もうちょっと!」
「次また大きな波が来るからねー!それで終わりだよー」
奈月が荒く呼吸をついている。そしてまた全身に力が入った――――
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