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その瞬間、体中に一気に熱が広がった。今まで感じたことのない衝撃。心臓が異常に早く鼓動を重ねる。
それはとても端正な顔立ちの青年だった。長いまつげにふちどられた大きな目が今は潤んでいる。
きめ細かい頬に触れたい、唇にむさぼりつきたい、という衝動に突き動かされそうになって戸惑う。
気を抜けば衝動のままに動きそうで必死にこらえた。
今までにない衝動。
しかも相手は誰だかもわからないのに。
ふと以前椎名とした会話を思い出す。
あれは椎名から運命の番を見つけたと嬉しそうに報告された時だった。あの時俺は疑問に思ったことを椎名に聞いてみたのだ。
「運命の番ってわかるもんなのか?」
椎名はなんて答えたのだったか。
あぁ、そうだ。あいつはこう言った。
「出会った瞬間にわかりますよ。この人以外はもうだめだ、って本能が感じますから。」
まさか…これがその「本能」なのか…?
ならこいつは俺の…
―運命の番だ。
理性でそう自覚したらもう我慢ならなかった。目の前の少年を抱き締める。
目の前にある首筋から甘く誘う匂いが濃くたちのぼってその首筋に口づけて噛みつきたくなる。この体を離したくなくなった。
元より俺の本能は離すつもりはないのだろう。こんな場所だというのに理性が焼ききれそうだ。
青年も俺の匂いに反応しているようで、抱き締めると匂いにあてられたのか気を失ってしまった。ぐったりとした青年を横抱きで抱えて立ち上がる。
「椎名、車はまだ待たせてあるか?」
「はい。…あの、すごいフェロモンなので早くここから出るのがよろしいかと。」
戸惑う周囲とは反対に椎名はもう状況を把握したらしい。
「あぁ、そのつもりだ。行くぞ。松島社長へのフォローはまた後日だ。」
「はい。」
そのまま椎名を連れて会場を後にする。腕に抱いた存在に正直理性がぎりぎりだ。
車に乗り込むと椎名に行き先を問われる。
「俺のマンションに。」
「マンション…自宅にですか?」
「あぁ。そうだ。」
俺が他人を自宅に入れることは今までなかったから椎名が驚いたように聞き返してきた。だが今の俺にはこの青年を自分のテリトリーにいれる以外の選択肢は考えられなかった。
「高宮社長、その青年はあなたの…運命の番なのですか?」
その椎名の問いにはっきりと答える。
「こいつ以外あり得ない。」
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