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奈月の陣痛は長く、やっと分娩室に入ったのは夜に差し掛かった頃だった。
外はまだ少し明るい。春から夏へ季節は移り変わりを済ませた。厳しい夕日が沈もうとしている。俺は分娩室の外で奈月の無事を祈っているしかなかった。
奈月が分娩室に運び込まれる時、共に入ろうとした俺を奈月は
「万里は、外、で待ってて。」
と苦しそうな呼吸の合間にそう言って止めた。なぜだ、と固まった俺を置いて医者やナース、奈月を隔てて扉は閉まった。
閉め出されたのは解せないが、奈月が言うなら仕方がないとその場に止まったもののどうにも落ち着かない。時折奈月の呻く声が聞こえてくるのが更に落ち着かなさを煽る。座ってもいられず俺は扉の前の廊下をうろうろと歩いた。
いつだったか奈月がぽつりと漏らしたことがあった。「産まれてくる子がΩだったらどうしよう」Ωが生きていくのはきっと他の性に比べて大変だから、と。その時俺はお前は今不幸せか?と聞いたのだ。とんでもないという風に首を振る奈月にこう言ったけど「だったら俺たちが守ってやればいい。産まれてきた子が幸せだと思えるまで。」その思いは今も変わらない。だから、だから早く産まれてこい。
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