2414人が本棚に入れています
本棚に追加
病室で静かに眠る奈月の側で穏やかな寝顔を見つめていると幸せが込み上げてくる。
そっと頬を撫でると奈月が目を開けた。
「すまない、起こしたか」
「いや、大丈夫」
ベッドの上に体を起こそうとする奈月を背中に手を回して支える。
やはり出産は体に堪えたのか奈月は何時間も眠っていた。かなり痩せたように思う。その頬をまた優しく撫でた。それにすり寄ってくる奈月をとてつもなく愛しく思う。
「奈月、ありがとう。」
そんな言葉が口をついた。奈月が少し驚いた表情をしてからふっと笑った。
「こちらこそ、だな」
ベッドの隅に腰を下ろした俺の胸に奈月が寄りかかる。
「なぁ、名前何にしよっか」
「そうだなー男だからな」
そう、産まれた子は元気な男の子だった。男の体での出産に、健康が心配されたその子はスピーカーもかくやの産声を上げて、その懸念を払拭したと共に部屋に居た医者やナースに笑いを提供した。
「うーん…」
考え込む奈月に、今ふと思い付いた事を言う。
「伊吹、はどうだ?」
息吹く命。俺たちの初めての子供であり、力強い命。
「いぶき、か。うん、ぴったりじゃん?」
奈月が大きく頷いて笑みを浮かべた。
「命が息吹く。幸せが息吹く。いい名前だ!あぁー早く伊吹に会いたい!」
伊吹はまだ新生児室だ。
「見に行くか?」
「うん行く!伊吹ー待ってろよー」
こちらも健康が心配された奈月はこれまた元気に起き上がって見せた。それも本当によかったと息をつく。
伊吹を腕に抱いた幸せは言葉では言い表せないものだった。
奈月と伊吹とこれから過ごす日々はきっとどこまでも幸せが待っている、そう思えることが幸せだ。
最初のコメントを投稿しよう!