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伊吹誕生から17年後
~伊吹side~
うわっ!という声とガチャン、と何かが割れる音がした。次いでバタバタと走り回る音も聞こえてくる。あれは母だろうか、それとも双子の弟たちだろうか。どちらにせよ階下は大変なことになっているようだ。長い間同じ体勢いたために固まっていた体を背をそらしてほぐす。こなしていた課題を置いて俺は自室を出た。
リビングを覗くと並んで立つ弟たちとその前に散らばるガラスの破片。そして仁王立ちの母。あ、これはヤバイ、と思った瞬間
「危ないから走り回るなって言ったろ!グラス割れちゃっただろ!」
母の雷が落ちた。男らしい怒鳴り声に弟たちは竦み上がっている。でもこれはしょうがない。あれは母が大切にしていたガラスで出来たグラスだ。大方グラスを持っていた母に走り回っていた弟たちがぶつかったのだろう。で、その拍子に落ちたグラスが割れてしまった、と。弟たちが悪い。
ソファで座っていた父が静かに声を発した。
「何か言うことは?」
この父の様子に弟たちは半泣きだ。いや、半泣き通り越して泣いてるか。普段から威圧感がある父は怒っていると半端じゃなく怖いのだ。泣きながらごめんなさいと謝る弟たち。それを見た母はひとつ息をつくと、
「もうしないな?」
と問いかけた。弟たちは必死に頷く。それを見届けて母は腕を広げた。弟たちはその腕の中に飛び込む。反省すればよし、と宥める母を見つつ俺は「片付けるよ」と近寄った。
「ごめんな、勉強の邪魔したか?」
母が申し訳なさそうに言う。ううん、と首を降った。もうそろそろ終わろうとしていたところだったから本当に邪魔はされていない。それに
「そろそろ家を出る時間だから」
ちらっと時計を見て言うと母も時計に目をやってあっという表情をした。
「ほんとだ!忘れてた」
キッチンにいた妹たちが母の雷が去ったのを見計らってか、ひょこっと顔を出した。
「お母さんたち病院行くの?」
「うん、今から行ってくるよ。」
母がそちらに首を伸ばして答える。
「やばい、もう時間だな」
母が困ったように眉を寄せた。すると父が立ち上がって
「後はやっとく。お前たちは言ってこい」
と俺の手からほうきを取った。そして俺はきつく抱き締しめられた。ぐえっとなった俺を解放して次に母も同じようにする。
そのいつもの習慣を受けて、俺と母は急いで家を出た。
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