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回想
「その姿の中にあなたが私をみてくれるなら、何になっても構わない。本当よ、これ」
白い息が目の前をいっぱいに覆い尽くす。外が寒いのか、自分の体温が高いのか分からなかった。
ふっと息を吐き出す。喉の奥に残った熱い空気を冷ますように、また外の空気を取り込む。
「ねぇ、きいてる?」
きいてるよ。
「なんて言ったでしょう。」
何にだってなれるんだろ。
「ぜんぜん、きいてないじゃん。」
きいてるって。
なぁ、もう、何にもならなくて、いいからさ
人の死というものは小さな奇妙な思い出を残していくものだ、と聞いたことがある。けどそれはあまり親しくない人の場合であって、大切な人ならきっと美しい記憶しか残らない。いや、何気ないこと、嫌だったことさえもきらきらとした輝きを帯びて反芻されるにちがいない。
その証拠に、僕はまだこうして何年も前の冬に取り残されている。
肺を潰しながら深く息を吐き、さっきよりも大きく吸い込む。身体が外と同じ温度になればいいのにと思う。もちろん、死にたい訳じゃない。ただ、あの日と同じような景色をみせるこの夜に溶け込みたいだけだった。
共時性、という言葉がある。シンクロニシティとも訳されるこの語は、一般的に "意味のある偶然の一致"と説明される。少なくとも、僕にとって意味のある偶然の一致が、今こうして目の前で起こっているという事実は僕以外の誰にも説明できないし、理解もされないだろう。いや、理解されなくたって構わない。ただ、僕は自分のために書く。けどいつかこれがどこかの誰かに理解されたとしたら、きっとそれは僕が思っているよりも僕を喜ばせるに違いない。
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