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ベンディング・マシン
「110円、あげましょうか。」
彼女は怪訝そうな顔で僕を一瞥(いちべつ)した。
「だって今、押し間違えたんじゃないですか、ボタン。」
「冷たい方が気分が晴れていいの。」
キャラメル色のダッフルコートの裾が地面に着くのを気にしながら、彼女はしゃがみこむ。しかめた顔でその小さく冷たい塊を指の先でつまみ、素早くポケットへねじ込んだ。
「晴れないことでもあったんですか。」
「それじゃあ、早く帰って温めるわ。」
歯の隙間で息を吸いながら、立ちあがってそういった。
「次の夏まで置いときましょうよ。」
「どうして?」
ゆっくりと瞬きして現れた瞳がこちらに向けられる。繊細に震える睫毛の先は今にも凍ってしまいそうに見えた。実際に、鳥の羽のように降り始めた雪がバランスよく乗り、左の目を美しく飾った。
「その方が、ずっと美味しい。」
「嘘は嫌いよ。」
「僕が書いた卒業論文で集めたデータによると、73%の人は買ってすぐよりも半年後の缶コーヒーの方がおいしいと答えた。」
「そう。それは歴史的発見ね。」
「ええ。後に学内で最優秀賞をとって、それで得た賞金で僕はまず淹れたての熱いコーヒーを飲んだ。」
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