一章 ひび割れた同一性

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 「あれだけ話題になると、やっぱ考えちゃうよ。犯人はどうして人殺しなんてことをしたんだろう、そいつはどんな奴なんだろう……それから、いつになったら捕まるんだろう、ってさ」  「犯人……理一はどんな奴だって考えてるんだ?」  「……わからないよ。想像もつかない、そんなこと」  唯史は犯人の人物像について、思いを馳せてみる。  件の事件について唯史が持っている知識は、それなりに多い。個人的な興味から、ニュースなどから得られるもの以外にも『彼』に関する情報を集めていた。  「……じゃ、俺のイメージしている犯人像を聞いてもらおうか」  「お、唯史の推理か。いいねいいね」  理一は楽しげに身を乗り出してくる。  「……例えばの話だけどさ、『そいつ』は殺しをなんとも思っていない、正常な人殺しなんだ」  「正常な人殺し?変な話だな、そんな悪事に手を染めてる時点でそいつは異常だろ」  「いや、違う。秩序に従って生きる人間が、一時の感情で過ちを犯したんじゃなく……そいつは正常なんだ。自分の手で人を殺すことなんて何とも思っちゃいない。『世間じゃ悪って言われてますよね、それ』程度の認識だ」  唯史は理一の反応を慎重に探りつつ、話を続ける。
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