一章 ひび割れた同一性

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 いつの間にか他のクラスメイトはみな姿を消し、教室の中に居るのは唯史と理一の二人だけになっていた。  「そういう奴が人を殺すためには……大した理由はいらない。ただなんとなく、晩飯の献立を決めるようにその日殺す奴を選ぶんだ」  ごくり、と理一が唾を飲み込む音が聞こえた。  「どうやって殺すか?どれくらいの時間を掛けて殺すか?これらも同じように、その時の気分で決められる。……とはいえ、人の強度にも限界はある。一回死んだらそれきりだが、弱りすぎて反応がなくなっても面白くない。じっくりゆっくり、なるべく長く楽しめるようになぶり殺していく」  「唯史、お前は……」  「もし、未だに警察が真相を掴めていないのだとしたら、それはその殺人に動機を見いだせないからだ。だから警察も、犯人像を絞り込めないでいるんだと思う。俺の考えはこんなとこ」  しばらく唖然とした表情を浮かべたあと、理一はため息混じりに言った。  「すごいな唯史……オレ、びっくりしちゃったよ……」  「一般人が得られる情報を一般論に当てはめただけだ。世の中広いんだし、そんな奴がいたっておかしくないだろ。な」  静まり返った教室の中には、妙な緊張感が漂っていた。  「は、はは。まぁ、そうかもな」  理一は強張った笑みを浮かべる。  「えらく具体的な人物像だから、ちょっと怖くなっちゃったよ」  「帰ろう、変なところで時間を食っちまった」  「俺も行くよ。バッグバッグ」  唯史が廊下へと歩き出すと、理一は小走りで自席に戻っていく。  その時。教室の外、閑散とした廊下の遠くの方から、慌ただしい感じの足音が聞こえてきた。  「来たな」  理一がにやりと笑いながら呟いた。足音は勢いそのままに教室の中へと駆け込んでくる。
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