一章 ひび割れた同一性

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 「唯史っ!」  「千鶴……お前はいつも全速力で俺の前に現れるな」  「アンタがいつもあたしを避けるからでしょうが……」  「お前がいつも小言ばっかり言うからだよ」  「あたしも好きで言ってるわけじゃないっ!」  唯史の幼馴染、久留島千鶴は現れるなり大股で唯史の前まで向かってくる。進行方向を塞がれたので、彼女を避けて別の出入口へと向かった。その後ろを理一、更に後ろから千鶴が追う。  「……日直の仕事はいいのか?」  「日直じゃなくて委員会……快速で終わらせてきたのよ、唯史があたしを置いて帰るかもしれないから」  「唯史」  理一が唯史のすぐ隣まで追いついてきて、唯史に耳打ちする。  「オレ、居なくなった方がいいか」  「……いや、むしろ居てくれ」  同じくらい小さな声で返答すると、理一は白い歯を見せて悪戯っぽい笑みを見せた。  「りょうかい」  直後、唯史の体を突き飛ばすようにして二人の間に千鶴が勢い良く割り込んでくる。  「なに内緒話してんのよ……というかアンタ、志波って言ったっけ?……そんなに唯史と仲良かった?」  「最近仲良くなったんだよ。なぁ唯史?」  「あぁ、そうなのか……?」  ぺちり。唯史が適当な返事を返すと、千鶴の平手が理一の頭を叩く。  「ってーな」  「アンタね、なに突然変なこときいてんの?ばかじゃないの?ちゃんと知ってるんでしょ、唯史の記憶のこと」  「ばかじゃねーよ。お前もそう過敏になるなよな。記憶が無いのはどうしようもないことなんだから」  「アンタねぇ!」  二人のやり取りを聞きながら、唯史は下駄箱に向けて歩き続けた。
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