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(……今日はこれからどうしようか)
昨日の今日で駅前の方に足を伸ばすのは少し怖い。またあの、昨日の女に出くわすかもしれない。
……出くわしたところで打ちのめしてしまえば問題ないか?いや、だめだ。あの女はこれまで自分が傷つけてきた男たちとは決定的に違っている。彼女はなんの悪事も犯していないのだ。
「やっほー」
そんな思考を断ち切るのは、聞き覚えのある声。唯史は顔を上げて、声の方に視線を向ける。
中学生や高校生と見紛うような小柄な女性。昨晩、夜の街で居合わせた彼女だ。
「お前は……」
驚きから一瞬思考が固まる。偶然であるはずがない。どうやって調べをつけた?
「そのバッグ」
女は、唯史の肩に提げられているバッグを指差した。
「ありふれたスクールバッグに校章をあしらった物。暗くて細かいところまでは確認できなかったけど、学校指定のものよね。今日もその中に着替えを入れてるのかしら?」
「…………」
「男子校または共学校で指定のバッグを生徒に使わせているのは、周辺だとこの高校だけ。ダミーである可能性、遠方から足を伸ばしている可能性は後ほど考慮するとして……最初の調査対象とするには妥当と言えるでしょう。ねぇ、二年二組の澤唯史くん?」
名前を呼ばれた。さらなる驚きに襲われた唯史は、動揺を隠すことができなかった。
「付いてきてくれるかしら?私、あなたに聞きたいことがあるの。世間で話題になってる、あの事件のこととか、ね」
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