二章 正義という呪い

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 「にしても記憶喪失だなんて、お話の中でしか見たことがなかったけど居るところには居るのね。……であの子は、記憶を失う前のあなたの恋人というわけか」  「……どこまでついてくるつもりですか」  「そりゃ君が歩き続けるならどこまでもよ。それが目当てでここまで来たんだもん。と、いうことで……」  女はスーツの懐に手を差し込んで、中を探る。  「はい。私、こういうものです」  唯史は目の前に差し出された一枚の名刺を受け取る。そこには大きく『探偵 功刀恵那』と記されていた。  (読めない……)  「れっきとした探偵であります」  「……現実に存在するんですか、そんな職業」  「するわよ。ほら、この街って結構治安が悪いじゃない?非行少年達が例の事件に関わっていないか、って考えていてね。色々情報が欲しかったのよ」   (探偵ね……)  唯史は彼女の全身を改めて眺めてみる。  やはりその容姿からは幼いという印象を受ける。服装や髪型を工夫すれば中学生と言われても信じてしまいそうだ。タイトスカートのスーツ姿も、何かの悪ふざけで着ているように感じられた。  「俺がそれに付き合う理由はないですね。お断りします」  拒絶の意志を示すように歩調を速める唯史だが、女もすかさず追い付いてくる。  「ノンノン、多いにあるわ。というより君は私への態度を改めるべきよ」  彼女は再び懐に手を差し込む。取り出したのは一枚の写真だ。  地面にへたりこんだ男と、それに襲いかかろうとする男、二人の姿が写っている。その情景は、唯史の中にある昨晩の記憶とぴったりと重なる。  「それは……」  「ちょっと見づらいけど……顔の判別は問題なくできそうね。あなたの犯行を証明するには十分だわ」  (殴って黙らせるか)  不意に、唯史の中で暗く重たい声が響いた。腕力に関して自分と彼女の間には大きな隔たりがある。武器などで応戦されない限り、一方的な展開になるはずだ。
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