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「やめなさい!」
ある夜。大通りから外れた人気の無い裏道で、女性の声が響き渡った。
彼女の視線の先には二人の男が居る。
一方は地面に膝を付いたままうなだれていた。その顔は、原型を想像することもできないほど青く腫れ上がっていた。どうやら気を失っているようだ。
もう一人はそいつの胸ぐらを掴み、拳を振り上げた状態で静止していた。顔立ちは若い。見る者によっては少年と評されることもあるかもしれない、そんな容姿をしている。
「やめて。お願いだから……」
眉に皺を寄せ、懇願するような調子で、女は制止の言葉を繰り返す。
小柄で華奢な体型をした、幼げな容姿の女性だ。しかしその表情や佇まいからは力強い意志がこもっている。畏れなどは微塵も感じさせない。
睨みあって何も言葉を交わさないまま、しばらくが過ぎた。
ふと、少年が胸ぐらを掴んでいた手を緩める。均衡を失った男の体は大きく傾き、アスファルトの上に崩れ落ちた。
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