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しかし……女だ。女はまだ殴ったことがない。小さく弱く、正しい生き物を一方的に傷つけるという行為は、これまでとは違った意味を持つ。それはすなわち、越えてはいけない一線を越えるということだ。件の事件の犯人と同じ場所まで落ちていくということだ。
「躊躇ってるの?女は殴らない主義?」
挑発的な態度を見せる彼女を前に、唯史は奥歯を噛み締める。
「……何が聞きたいんですか」
しばらく黙考した後、唯史は折れた。彼女がまだ、唯史の次の一手を上回るような何かを持っているのではないか、という不安が拭えなかったのだ。
よろしい、と満足げに言ってから、彼女は言葉を続ける。
「例の殺人事件について、公に報道されていること以外で何か知ってることはない?同年代の間で広がっている噂でもいいわ」
女はまた、じっと唯史の顔を見つめている。唯史の内心で緊張感が滲んだ。
「……特に、なにも」
「……それじゃ次の質問。事件の犯人についてどんなイメージを抱いてる?あなたの個人的な意見を聞かせて」
どこからか手帳を取り出した彼女は、それを開いて万年筆を構え、唯史の言葉を待っている。
犯人の人物像。これまで幾度となく思いを馳せてきた彼のイメージを脳内に描く。
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