一章 ひび割れた同一性

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 夜が更けても眠れない日が続いた。布団に入っても、天井を見つめたまま時間だけが過ぎていく。疲れは蓄積していくが、眠気がやってこない。  睡眠導入剤に頼ることに嫌気が差したある夜、唯史はこっそり家の外へと出た。  大通りから逸れて、街頭に照らされた暗い夜道を歩く。  唯史は様々なことに思いを巡らせた。これからの自分のこと、自分に対するみんなの感情。それらの思考は皆一様に、暗く重たい方へと向かっていく。  「ねぇ、君」  たむろする集団の脇を通り抜けようとした時、その内の一人が立ち上がって唯史の方へと近づいてきた。続いてそこに居た二人も近づいてきて、退路を塞ぐようにその周りを囲った。  「こんな時間に危ないじゃん。何してんの」  「…………」  唯史は口を閉ざして相手の顔を見上げる。  目的はなんだろう。金銭か、うさばらしのサンドバッグか。いずれにせよ、何の変哲もない高校生である自分がこうして絡むのにちょうどいいと思ったんだろう。こちらとしてはそれだけが分かれば十分だ。
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