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モモはトイレの時にはスマホを置いていくタイプ。それがこの頃、持っていくようになっていた。忘れても戻ってくるほどだった。 今日も忘れたままトイレへと向かって、それに気づいて戻って来た。その時に着信が鳴った。ちょうどモモが手を伸ばした瞬間で、画面には先輩の名前が表示された。モモは先輩とは何のやり取りもしていないって私には言っていたのに。 「何でもないよ。本当に何の意味もないから」 このとき初めて人が青ざめる顔を見た。実際に顔が青くなるわけではないのに、そう表現したくなる気持ちが穂乃果にも理解出来た。穂乃果自身の顔も青ざめていたからだ。 沸き起こった感情は怒りではなく、見てしまったことへの後悔と悲しみ。体温が奪われるさまを色で例えるのなら、青は妥当だと思った。 モモは自分の潔白を証明するためにLINEの中身を見せてくれた。確かに内容はなんてことなかった。 (何してる?)から始まって、退屈に過ごしていたそれまでの時間をお互いに報告し合っていただけ。 夕食が2日続けてのカレーだったとか。 そのおかずがおでんだってことに納得がいかないとか。 父親がタンスに小指をぶつけて叫んでいるとか。 寝る前だっていうのにアイスが食べたくなってしまったとか。 その日に起きたことを羅列しただけのやり取り。先輩と打ち解けたいとか想いを探りたいと必死だった穂乃果と比べれば、退屈に思えるものだった。 だけど、圧倒的に穂乃果よりもやり取りの頻度が多くて、返信の時間が1分もかかっていないメッセージばかりだった。穂乃果の場合3,4分は当たり前。先輩の反応を想像して、誤字脱字を確認して、送信を押すことにもためらっていた。 悩みぬいて時間をかけることに幸福を感じていたけど、モモのやり取りを見て感じたことは、先輩との心の距離だった。 穂乃果は言葉を忘れたように声が出なくて、モモも言い訳しようとしなくて、同じ席に座っているはずなのにお互いの世界に閉じこもっていた。 「ごめん、先に帰るね」
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