最後の晩餐

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「ここは山に囲まれた地域。山の物が()れるのはわかるが、海の物は如何(いかが)したのだ?いつ獲ってきたものかわからぬが、こんなに新鮮に保つ技術があるとは。良ければ是非ご教授願いたい」 「実は、私の妻がクチウミ(・・・・・)でして」 「クチウミ?」 保食(うけもち)の妻、宜都(げつ)はクチウミだった。 祖先は氷河時代に(さかのぼ)るのだが、食糧難を経験した人類は生き延びるのに必死だった。人類の多くは器用な手足と知恵を活かして様々な技術を生み出し生き延びたのだが、一部の人間は食べ物を体内で生み出す力を身に付けた。それがクチウミだ。 だが、余りにも特殊な技術だったことと、身体に大きな負担がかかってしまい短命の血筋だったこともあり、大きな繁栄は無く、氷河時代が終えて暫く経った頃にはその(ほとん)どが絶滅した。 「──そして、その生き残りが保食殿の奥方であり、今日の食事は奥方の口から出したものだということなのだな」 「はい、出来るだけ新鮮なものでお迎えしたいと思い」 「理由はどうあれ、我々は奥方の(しも)の処理をさせられたということは変わり無い。おいっ、わしの剣を持って来い」 月読の家来が剣を持ってくると、宜都を連れてくるよう命じた。 「月読様待ってくだされ。妻に悪気はありませぬ。むしろ、おもてなしのために命を削ったほどです」
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