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チェルシーと硬質の愛
暗闇をスマホが照らしている。反射的に画面を見ると着信アリ。「あなた、今日は遅くなります」
もぞもぞと布団から手をだすと、刺すように空気が冷たい。まだ時刻は夜明け前だ。
「こんな時間まで……」
俺は妻の身を案じた。妊娠三か月目の女性を予定外の深夜シフトに駆り出すとは。宅配寿司は今や花形産業だ。
それにしても午前三時に飯を食ってるって、どういう層なんだろうか。
もっとも宅配寿司とは名ばかりで何でもありだ。甘ったるいスイーツから鍋料理まで豊富なバリエーションで客の胃袋を掴んでいる。
座席のタッチパネルで注文するようにスマホアプリを叩けば、寿司一貫からでも配達してくれる。何度でも送料無料だ。
ドローンが宅配ボックスまで運んでくれ、そこから先はハウスメイドロボットが枕元に持ってきてくれる。
便利になったものだ。ベッドから一歩も離れず買い物ができる。最近では通販大手のヘマゾンや爆電市場も参入している。
本来は寝たきり老人を介護するために開発されたが、老若男女問わず欲しがった。
「寒ッ! どうにかならんか?」
俺が思わず口にするとスマホが即答した。
「温かい飲み物でもいかがでしょうか?」
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