チェルシーと硬質の愛

1/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

チェルシーと硬質の愛

暗闇をスマホが照らしている。反射的に画面を見ると着信アリ。「あなた、今日は遅くなります」 もぞもぞと布団から手をだすと、刺すように空気が冷たい。まだ時刻は夜明け前だ。 「こんな時間まで……」 俺は妻の身を案じた。妊娠三か月目の女性を予定外の深夜シフトに駆り出すとは。宅配寿司は今や花形産業だ。 それにしても午前三時に飯を食ってるって、どういう層なんだろうか。 もっとも宅配寿司とは名ばかりで何でもありだ。甘ったるいスイーツから鍋料理まで豊富なバリエーションで客の胃袋を掴んでいる。 座席のタッチパネルで注文するようにスマホアプリを叩けば、寿司一貫からでも配達してくれる。何度でも送料無料だ。 ドローンが宅配ボックスまで運んでくれ、そこから先はハウスメイドロボットが枕元に持ってきてくれる。 便利になったものだ。ベッドから一歩も離れず買い物ができる。最近では通販大手のヘマゾンや爆電市場も参入している。 本来は寝たきり老人を介護するために開発されたが、老若男女問わず欲しがった。 「寒ッ! どうにかならんか?」 俺が思わず口にするとスマホが即答した。 「温かい飲み物でもいかがでしょうか?」     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!