チェルシーと硬質の愛

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最近ではパーソナルアシスタントにまで対応してやがる。 「頼む」 「コーヒーにお砂糖とミルクを二杯ずつですね?」 「ああ」 俺の好みなんかとっくに学習しているはずだが、情緒的なやりとりは必要だ。 「では、5分後にお届けします」 チャリン♪と澄んだ音が鳴る。仮想通貨が決済のシェアを握ってから、こういうわざとらしい演出がやたらと増えた。高額商品の場合だとドサっと札束の音がする。 俺は嫌いだ。 それはそうと妻は元気に働いているだろうか。 「天空寿司コーポレーションの人事部に問い合わせる場合は家族認証をお願いします」 思わず言葉にしてしまったらしい。スマホが俺の手元に飛んできて掌に留まった。 「DNAパターン、一致。生体電流感知。従業員家族と確認しました」 パッ、と天井が輝いて妻のシフト表が浮かび上がる。 「ちょっ……18時間連続シフトか?! だんだん定額働かせ放題がひどくなるな」 俺は永田町の方向を睨んだ。 少子高齢化抑止控除は妊娠中の女性に適用されないから、収入の6割が国庫に入る。 曾祖父の時代は出産祝いと称して必要な金品は親族が支援してくれたそうだ。それも今では贈与税がしっかりかかる。 シフト表には社員の健康度をはかる虹色の帯が添付されている。ゲージが赤よりの橙色にある。     
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