チェルシーと硬質の愛

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傷口に塩をたっぷり塗りやがる。被害者遺族の心情なんかお構いなしだ。 「いいえ。俺は心療休暇を貰って、ここ一年ほどこもりっきりで、妻は家と職場を往復する生活でした」 矢継ぎ早の質問の後、刑事は「ほう」と唸った。 「何か手掛かりでも?!」 俺はどんな糸口でも引きずり出そうと刑事に食い下がった。 「あまり詮索しない方が身の為です」 「どうして?! 犯人を捕まえて、きっちりと賠償を……」 「おそらく、それは無理でしょう」 「どうしてですか?!」 声を荒げると、若い刑事が割って入った。 「あちらでお話ししましょう。ご覧に入れたいものがあります」 俺はおぼつかない足取りで彼に引っ張られていった。凍るような寒さの中、マンションの裏手に案内された。 壁に直径3メートルほどの焼け跡がついている。 「あれは何だか、おわかりになりますか?」 刑事がコートのポケットからオペラグラスを手渡した。あらゆるセンサーを内蔵したAI連動型の特注品だ。 のぞき込むと壁の表面温度やくすぶっている煙の成分表示が映像に重なった。 「半導体部品の燃えカスって……どういうことです?」 俺は字幕表示を棒読みした。AIはかなりの正確さで現場検証を支援する。大昔の刑事ドラマに出てくる鑑識課員はとうに失業した。     
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