まずはお触りで

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 この関係を壊したくないけれど、もっと心身ともに近付きたい。  包まずに言えば、ヤリたい。泣かせたい。  その機会を虎視眈々と狙っている。 「あれ? 手のとこ、血が出てるけどまた何かしたの?」 「あー、殴りどこをミスっただけだ」  血の滲む手の甲を見て蒼は痛ましそうに顔を歪めた。  健太は舌打ちをすると乱暴に手をポケットに突っ込む。 「うちに寄ってってよ。消毒くらいならできるから」 「別にいい」 「おばさんに言いつけるよ」  健太がわかりやすく顔を顰め、観念して頷くのはすぐだった。  不良ぶっているが素直なのは熟知している。  半ば無理やり家に連れ込み、健太のために備えていた救急セットで手当てをする。その間にも蒼の頭の中はどう健太を口説こうかでいっぱいだった。 「器用だな」 「健太のおかげでね」 「頼んでないだろ」 「じゃあ怪我しないでよね」  ――仕込んでみようかなあ。  救急セットをしまいながら、コーヒーの支度をする。  勿論健太にはまだ帰らないようにいい置いてある。 「今日は母さん遅いんだよ」 「寂しいなんて言うなよ?」 「えー。寂しいから構ってよ」  二人で笑いながら冗談を交わす。だが蒼の心臓は今にも破裂しそうなくらい高鳴っていた。  ――媚薬、なんて胡散臭いけど効くのかな。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加