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 青年は気がつくと、今まったく見知らぬ場所にいた。  白い床と白い天井がどこまでも続く空間。とても現実の光景とは思えなかった。  ついさっきまで自室の布団に寝転がって天井を見上げていたはずなのに。そのまま寝入ってしまい、夢を見ているのだろうか? だとすると、色も味気もないなんと空虚で寂しい夢だろう。まるで、今の自分の心境そのものじゃないか。  そんなことを思いながら青年は、それでも何かないかと目を凝らして辺りを見渡していると、こちらへ近づいてくる一つの人影が見えた。  嬉しくなった青年は人影に向かって歩き出した。  しかしすぐに青年の足はぴたりと止まってしまった。人影の異様さに気づいてしまったのだ。その肌は赤く、額からは大きな二本の角が生えていた。服こそ黒いビジネススーツだが、その顔は昔話の絵本に出てくるような赤鬼そのものだった。  驚きのあまり、体が動かせない青年の前に赤鬼は立った。 「どうも、どうも。お待たせいたしました」恐ろしげな形相とは裏腹に、赤鬼は気さくな声で話しかけてきた。「おや、どうしました。顔が青いですよ?」 「お前は、何者だ?」  ようやく口を開けた青年に対し、赤鬼は恭しく答えた。     
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